英国式フラワーアレンジメントのお店 フローリストローズグローブ FLORIST ROSE GROVE

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ロンドンの日本人観光客

わたしが初めてロンドンを訪れてからもう20年が経とうとしています。ありふれた表現ですが、月日の流れは早いものです。レンガ造りの頑丈な建物たちは見たところ何も変わりはなく、新しい通りが出来るわけでもなく、昔ながらの佇まいです。テムズ川の南は、大きな観覧車が出来たり、シャトル型の未来然としたビルが建ったりはしますが、いつきても同じ香りの街です。


ただ、その古いビルの中のお店は毎年のように変化しています。わたしが知っている20年前と比べると、老舗のリバティは表通りに面した部分は切り売りされ、大好きなローラアシュレイは、リージェントストリートからもナイツブリッジからもその姿を消し、レナウンに翻弄されたアクアスキュータムもとうとう移転し、たくさんの掘り出し物のCDやDVDを見つけた「バージンレコード」もアパレルの「スティング」にその場を明け渡しました。


以前はコーヒーと言えばパブで飲んでいたのに、今やおなじみの「スターバックスコーヒー」以下、「COSTA」「Café NERO」など日本ではなじみのないお店を含めて通りのあちこちに並んで営業しています。

 

しかしながら、わたしが感じている一番の変化は日本人の観光客の激減です。以前は中心地のピカデリーサーカスに行くと、それはそれはたくさんの日本人観光客がいました。すぐそばにロンドン三越があることもあって、買い物袋を両手に下げ、歩きやすい靴を履いて、笑顔で歩く日本人がたくさんいました


ところが今はロンドンで日本人に会うことは稀です。典型的で日本人が好む名所、たとえば「フォートナム&メイソン」の食品売り場。有名ホテルのアフタヌーンティ。そういうところに行けば、数少ない日本人に出くわすことができます。ですが通りを歩くアジア人は圧倒的に中国人、そして韓国人。そういえば、ロンドンの有名な花屋さんで勉強のためと、無給かまたは圧倒的に安い賃金で働くアジア人も以前は日本人と決まってたのに、今やそんな勤勉で前向きな女性は韓国人がほとんど。いずれは中国人にその座を明け渡すのでしょう。

 

その影響か、ロンドンの日本人の憩いの場所「ジャパンセンター(一週間遅れの日本の雑誌や日本食が置いてあるお店)」は一等地のピカデリーストリートから裏通りへといつの間にか引越しし、ブリュワーストリートのカジュアルな日本食レストラン(なぜかメニューはラーメン、カレーライス、餃子がメイン)はその姿を消しました。


極めつけは、街の両替屋さんの中に店頭掲示に日本の「¥」がないお店まで現れてしまいました。





ショップで買い物をしていると、以前は片言で「こにちわ」と言われていたのが、今や「ニーハオ」と言われたり、「アニョハセヨ」と言われたり。いちいち訂正するのも面倒なので笑顔で会釈。でも内心は「日本人です」と。

 

バブル時代だったと言えばそれまでですが、経済だけではなく「人」の勢いまでもが、過去になってしまったようです。身近な買い物や美容目当ての海外旅行は人気があっても、遠い歴史ある国の文化や生活を学ぶ姿勢は薄れてきたように思います。かつてイギリスも栄華を極め、そして衰退していきましたが、英国という存在感は健在です。しかしながら日本から経済的な繁栄を取ってしまうと何が残っているのでしょうか。日本的美徳は薄れ、震災の中の秩序が世界から称賛された裏では、被災公務員から真っ先に厚い見舞いが行われ、一般の人たちは遅く薄い補償しかされません。


先日、週刊誌で藤原正彦さんが英国の「ノブリスオブリージュ」のことを引き合いに出されて、国の中枢を担う人たちが率先して国の将来を憂うことのない現在の日本を嘆いておられました。また他の週刊誌では「テレビで見たくない芸能人ランキング」なる相変わらずの下品な特集があり、その1位が「芦田愛菜」ちゃんです。小学1年生の子供に嫉妬する今の日本人の心の貧しさに愕然としてしまいます。


これから先、日本が再び繁栄を取り戻しロンドンをはじめとしたヨーロッパの大都市に日本人観光客があふれる日がくるのでしょうか。今の日本の現状を見るにつけ、胸を張ってロンドンの町を歩けないように感じます。中国人観光客に対して自らを投影してノスタルジーを感じてしまいます。日本人の観光客の姿そのものが日本のかつての繁栄の証です。

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